ウォーレン・バフェットの語るあるべき取締役の姿

バフェット

「オマハの賢人」ことウォーレン・バフェットが語る取締役の役目とは。

バフェットは、「取締役会はどうあるべきか?」について2020年2月22日付の「バフェットから株主への手紙2019」で明らかにしています。

コーポレートガバナンスについての理解を深めたい人には必読の内容です。

本記事はその和訳要約です。

▼必見のバフェットドキュメンタリー 

ウォーレン・バフェット氏になる (字幕版)

目次

I バフェットの取締役論の要約(株主への手紙2019より)

バフェットからの手紙2019のうち、12ページからの”Boards of Directors”の和訳要約です。

見出しは、各パラグラフのまとめのために追記しました(原文に見出しはありません)。

見出しを見れば、それぞれのパラグラフでどんなことが書かれているかがわかります。

1 近年の取締役会についての議論

近年、企業の取締役会の構成とその目的が話題になっています。かつては、取締役会の責任に関する議論は主に弁護士に限定されていました。今日では、機関投資家や政治家も同様にこの議論に加わるようになっています。

2 取締役について語るバフェットの資格

コーポレートガバナンスについて議論するための私の資格には、過去62年間にわたって、21の上場企業*の取締役を務めてきたという事実が含まれます。そのうち19社では、私はかなりの株式を保有してきました。

*21の上場企業
バークシャー
ブルーチップスタンプ
キャピタルシティーズABC
コカ・コーラ
データドキュメント
デンプスタ―
ジェネラルグロース
ジレット
クラフト・ハインツ
マラカイボオイル
マンシングウェア
オマハナショナルバンク
ピンカートンズ
ポートランドガスライト
ソロモン、サンボーンマップ
トリビューンオイル
USエア
ボルナド
ワシントンポスト
ウェスコフィナンシャル

3 女性の取締役が増えつつある

私が取締役を務めていた初期の30年ほどの間、家族ビジネスの代表者でもない限り、女性を取締役会の会議室で見かけることはめったにありませんでした。今年は、アメリカ合衆国憲法修正第19条の100周年を迎えます。これによってアメリカの女性の声が投票箱に届くようになったのです。女性の取締役就任については未だ途上にあります。

4 代表取締役をさがせ

長年にわたって取締役会の構成と義務に関する多くの新しい規則とガイドラインが生み出されてきました。それにもかかわらず、取締役にとっての根本的な課題は変わりません。ビジネス人生を会社に捧げる誠実さを確かに備えた有能なCEOを見つけ、維持することです。多くの場合、そのタスクは難しい。とはいえ、取締役が正しく理解していれば、彼らは他にほとんど何もする必要がありません。しかし、彼らがそれを台無しにすると・・・。

5 経営者の暴走

監査委員会はかつてよりも真剣に仕事に取り組んでいます。それにもかかわらず、利益「予想」とCEO達の「目標達成」の願望に端を発する数字ゲーム行う経営陣には監査委員会は太刀打ちできません。会社の数字を操作するCEO達と直接関わってきた私の直接的な経験(ありがたいことに限定的ではありますが)からすると、彼らは金銭的利益を求めるよりもエゴに基づいて行動を取ることが多かったといえます。

6 報酬委員会のコンサル依存

報酬委員会は現在、コンサルタントに以前よりもはるかに大きく依存しています。その結果、取締役報酬の定めはより複雑になりました(単純な報酬計画のために毎年多額のコンサルティングフィーを支払うのだと説明したいでしょうか?)。また、委任状の資料を読むのは極めて退屈になりました。


7 CEOの買収決定

コーポレートガバナンスにおいて非常に重要な改善の1つが義務付けられています。CEOが出席を禁じられている定期的な取締役達による「エグゼクティブセッション」です。そのような改革がなされる前は、CEOのスキル、買収決定や報酬について率直な議論がなされることは稀でした。買収提案は、依然として特に取締役を悩ませる問題です。ディールを実行するための複雑な法的スキームは洗練され、拡張されています(助言費用を適切に表現する文言も同様です)。買収を切望するCEOが、その買収について知らされた明確な反対論者を招き入れてそれに対して反論するのを見たことがありません。

8 CEOの買収への暴走を食い止める

全体として、役員室はCEOとその取り巻きが切望する取引の支持で埋め尽くされています。会社が賛成派と反対派の二手の「専門家」買収アドバイザーを雇って、提案された取引についての意見を取締役会に伝えることは、興味深いエクササイズになるでしょう。このような変革が起きるのを単に待っていてはいけません。現在のシステムは、CEOや、取引によって利益を得る多くのアドバイザーやその他の専門家に極めて都合よく機能します。ウォールストリートからのアドバイスを考える場合、昔からある思慮深い警告は常に当てはまります。散髪が必要かどうかを床屋に質問してはいけないのです。

9 取締役の行動に影響を与えるほどに報酬が高騰した

取締役会の「独立性」は新たな重要分野になりました。ただし、このトピックに関連する重要なポイントの1つは、ほとんど常に見落とされています。取締役の報酬は、多くの裕福ではない取締役会メンバーの行動に影響を与えるレベルにまで高騰しています。年に6日かそれくらいの回数のために快適な数日を取締役会に費やして25万~30万ドルを稼いでいる取締役のことをちょっと考えてみてください。多くの場合、そのような役得は、米国の年間世帯平均収入の3〜4倍をその取締役にもたらします。

10 取締役の地位は安泰

取締役の地位の安定性は素晴らしいものです。取締役会メンバーの意見は丁寧に無視されるかもしれませんが、解雇されることはめったにありません。代わりに、寛大な定年制(通常は70歳以上)が取締役の上品な退任の標準的な方法として機能します。

11 CEOは忠犬取締役を求める

ピットブル

裕福ではない取締役がもう一つの会社の取締役に就任して年収50万~60万ドルクラスになろうとするためには、支援が必要です。取締役を探している会社のCEOは、ほぼ確実に、その裕福ではない取締役の現在のCEOに、その取締役が「良い」取締役であるかどうかを確認します。その裕福ではない取締役が現在のCEOの報酬や買収の夢に対して真剣に対峙した場合、その人の取締役就任の途は絶たれます。取締役を探すとき、CEOはピットブル(*闘犬用の犬種)を探しません。家に持ち帰るのはアメリカンコッカースパニエルです。

アメリカンコッカ―スパニエル

12 給料をもらうだけの「独立」取締役

全くもって論理的ではないのですが、報酬を重視する取締役は、ほぼ普遍的に「独立」として分類され、他方で、会社の栄枯盛衰に関わる財産を持つ多くの取締役は、独立性に欠けるとみなされます。少し前に、アメリカのある大企業の委任状資料を見て、8人の取締役が自分のお金でその会社の株式を購入したことは一度もなかったことがわかりました(もちろん、彼らは多額の現金報酬に加えて株式報酬を受け取っていました)。このある会社は長い間遅れをとっていましたが、取締役はとても良くやっていました。もちろん、自分でお金を払って株式を所有しても、知恵を生み出したり、ビジネス上のスマートさが保証されるわけではありません。それにもかかわらず、私たちのポートフォリオ企業の取締役が、単に報酬の受領者であるというよりも、私財で株式を購入した経験があると、私は気分が良くなります。

     ************

13 多くの取締役は素晴らしい人達

ここで一息つきましょう。私が長年会ったほとんどすべての取締役が、きちんとしていて、好感が持て、知性的であることを知ってほしいと思います。彼らは、きちんと着こなし、良い隣人を作り、立派な市民でした。私は彼らの会社に満足しています。中には、取締役会の場以外では会うことはないであろうけれども親しい友人になった人もいます。

14 いい人だからといって金やビジネスを任せるわけではない

それでも、こうしたいい人達の多くは、お金やビジネスの問題を対処するために私が選ぶことは決してない人達でした。単に、それは彼らのゲームではなかったのです。

15 得意なものに集中せよ

誰でも1つや2つ全く何もできないことがあります。多くの人にとって、やるべきことは多数あります。認識すべき重要なポイントは、もしあなたがボビー・フィッシャーなら、儲けるためにはチェスだけをすべきだということです。

16 バークシャーが求める取締役

バークシャーでは、オーナー志向でビジネスに精通し、当社に強い関心を持っている取締役を探し続けます。ロボットのような“プロセス”ではなく、思考と原則によって行動を律する人達です。あなたの利益を代表するにあたっては、もちろん、彼らは顧客を喜ばせ、仲間を大事にし、彼らのコミュニティと私たちの国の良き市民として行動することを目標とするマネージャーを求めます。

17 取締役のあるべき姿は今も昔も同じ

これらの目標は新しいものではありません。これらは、60年前の有能なCEOの目標であり、今もそうです。そうでなければ誰がそれを持っているでしょうか?

II 『バフェットからの手紙』(日本語版)

会社員としてバフェットの取締役論を読んでみます。

ヒラと管理職、管理職とさらに上の幹部、幹部と社長。

それぞれ見ている視座が違います。

出世してから「えーっと、この地位だとこういうこと考えないといけないのか」と考え始めるのでは遅すぎます。

1人の足軽として敵の首を狙うだけの兵士を、10人、100人を率いる部隊のリーダーに抜擢したい武将はいません。

「上のポジションにいたらどうするか」を考えるのが出世に役立つ思考法です。

バフェットのコーポレート・ガバナンスに関する思慮深い意見は、最近流行のコーポレート・ガバナンスについての表面的な説明とはレベルが違います。

投資家として企業を分析し、巨大コングロマリットの経営者として、また多数の取締役を務めてきた経験に基づくものです。

バフェットの説明は、会社のトップにいる人たちの生態、考え方、あるべき姿をよく考えることはハイキャリアを目指す人にとっての最高の教科書です。

▼最新版の手紙は含まれていませんが、過去のバフェットからの手紙が掲載された書籍

バフェットからの手紙 第5版

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