ROEの意味や計算式をわかりやすく【サルでもわかる】

ROEとは

「ROE(あーるおーいー)とは聞いたことがあるが、何かよくわからない」

「ROEは8%以上がいいとか何となくしっているけど、どうやって算出するかは実は知らない」

こんなROE初心者向けにROEを解説します。

私は企業法務弁護士として働いていますが、ROEが仕事で出てきたことはありません。

会計のことが全くわからない人や、少しは会計がわかるが詳しくない、といった初心者が対象ですが、ROEの計算式について詳しく説明していますので、初心者超のレベルの方にも読める内容です。

読んですぐわからなければ、いつかわかる日が来るはずですので、このマニアックなブログ記事を読んでROEを理解しようとした自分をほめてあげてください。

ちなみに、私は、新人弁護士だったころ、先輩弁護士に「ねこでもわかるM&A、みたいな本ないですか?」と尋ねたところ、「ねこにM&Aはわからない」と冷たく回答されたことがあります。

この記事を読んでROEマスターになろう。

記事の1と2は、超初心者向けですので、ある程度知っている方は無視してください。

読みたい部分を目次から選んで読んでいただけたらと思います。

目次

1 簡単ROEクイズ | 直感的にROEを理解する

猿でもわかるROE

簡単なクイズというか質問をします。

以下(1) 事例を読んで、(2) 問いに答えてみてください。

(1) 事例

あなたは超お金持ちです。

社長を雇って食品事業を始めることにしました。

優秀な社長を選別するため、2事業を立ち上げ、2人の社長を競わせようと思っています。

事業①は、ハンバーガー事業です。

マクドナルド、モスバーガーに対抗できる事業にしたいと意気込んでいます。

業界内でハンバーガー経営では右に出る者はいないという半場さんをスカウトして社長に据えました。

ハンバーガー事業に投資する金額は100億円です。

事業②は、納豆事業です。

あなたは納豆はあまり好きではありません。

しかし、ジョブホッパープロ経営者として名高い内藤さんによる「私に任せろ」との強力なプッシュに負け、1億円だけ投資して内藤さんに任せてみることにしました。

両事業の初期条件のまとめは次のとおりです。

事業立ち上げから1年後、2事業の1年目の利益が報告されました。

事業①:10億円

事業②:5000万円

(2) 問い

設問1

あなたは、オーナーとして、どちらを高く評価しますか?

  • 事業①社長の半場さん
  • 事業②社長の内藤さん

設問2

設問1で高く評価したのはなぜですか?

(3) 解説

設問2で、「内藤さんを高く評価する」と答えた人は、ROEをすでにわかっています。

ROEに基づいて内藤さんを高く評価したはずです。

10%の半場さん

半場さんは、100億円を使って10億円だけ利益を上げました。初期投資額の10%の利益を上げています。

50%の内藤さん

内藤さんは、1億円を使って5000万円の利益を上げました。初期投資額の50%の利益を上げています。

もし、内藤さんが初期投資額100億円を与えられていたら、50億円の利益を上げていたかもしれない。

半場さんよりも内藤さんを高く評価した人は、半場さんと内藤さんの初期投資額の違いを考慮したはずです。

ここで算出した半場さんの10%、内藤さんの50%が「ROE」です。

詳しくは後で説明します。

半場さんを高く評価しても間違いではありません。

半場さんが稼いだ利益は10億円、内藤さんが稼いだ利益は5000万円。

利益をより多く持ってきたのは半場さんだ、内藤さんが初期投資額100億円で事業をやったとしても10億円稼げるかはわからないではないか、という考えもありえます。

この考えはROEを全く考慮していないものです。

2 やさしいROEストーリー

簡単なストーリーでROEを説明します。

前記1とほぼ同じレベルですが、株式や自己株式取得が出てくるのでやや高度になります。 

① シンプラー社の設立

株主1人のシンプラー社。株主は100億円を出資した。

株主は、100億円の私財をシンプラー社に出資しました。経営者がシンプラー社をうまく経営して儲けてくれると考えたのです。

② 1年目の業績

設立から1年後。経営者がシンプラー社の年間の業績を株主に報告します。

経営者:株主さん、よろこんでください。今年はなかなかの利益が出ましたよ!

株 主:うむそうか!で、利益は1年間でいくらだったのかね?

経営者:100万円です!!

株 主:たったの100万円?!100億円の元手で利益が100万円だけだと!?

経営者:はい。

株 主:君は、資本を全く有効に使えていない!100億円も与えて100万円しか増やせていないんだ。ROEは何パーセントだと思ってるんだ。

経営者:・・・ROE。えーっと。。

株 主:そんなんもわからんのか。利益100万円を100億円で割算して出すんだ。100万円÷100億円が去年のROEだ。0.001%だよ。君の経営手腕はメガバンクの普通預金と同じだ。

経営者:私の経営手腕はメガバンク並みに安定しているということでしょうか?

株 主:もういい。その利益100万円と昨年出資したうちの99億9000万円は私に払い戻してもらう。シンプラー社は、合計99憶9100万円分私の持っているシンプラー社株式を自己株買いしなさい。そして、来年は1000万円の元手でがんばりなさい。

経営者:そんなあ。

③ 自己株買いの実施

シンプラー社は、99憶9100万円を株主に支払い、株主からシンプラー社株式(自己株)を買った。

これにより、シンプラー社の手元にある資本は1000万円だけとなった。

そして、また1年が経過した。

④ 2年目の業績

経営者が株主に2年目の業績を報告する。

株 主:2年目の利益はどうだったのかね?

経営者:はあ・・・。変わりなし。全く成長なしでした。すみません。

株 主:ふん。まあそんなところだろうと思ったよ。で、利益はいくらだったんだ。1000円くらいかね。

経営者:そんな嫌味言わなくてもいいでしょ。変わらずっていったじゃないですか。100万円ですよ。

株 主:100万円も?!

経営者:なんで驚いているんですか?去年と同じ100万円じゃないですか。「たったの100万円?!」と去年は呆れてたでしょ。

株 主:去年と今年は全く違う驚きだ。

    去年は、100億円の元手から100万円しか利益をあげられなかった。

    今年は、1000万円の元手から100万円も利益をあげたのだ。

経営者:そんなもんなんですかねぇ。

株 主:えーっとROEは・・・。

経営者:10%ですよ。

株 主:おお!計算もできるようになったのか!

経営者:利益100万円÷自己資本1000万円=ROE10%でしょ。猿でもわかりますよ。

株 主:去年は猿未満だったくせによう言うわい。でもまあ、1年で株主である私の資本を効率よく使って利益を上げられるようになってくれてうれしいよ。

3 自社株買いをするとROEが改善する理由

事例の上記③で、シンプラー社は、資本が残り1000万円になるまでの猛烈な自己株買いを実施しました。

これにより、利益は変わらなくてもROEが急激に上昇することになったのです。

(自己株買い前)

利益100万円 ÷ 自己資本100億円 = 0.001%

(自己株買い後)

利益100万円 ÷ 自己資本1000万円 = 10%

注意してほしいのは、自社株買いをして会社の資本が減っても、シンプラー社の利益獲得能力は向上していないという点です。

また、現実には、自己資本が少なければ会社は投資資金が乏しいことになって利益を上げにくくなります。

4 ROEとは。ROEの意味

ROEとは、Return on Equityのことです。あるいはRate of Return on Equity。

日本語では「自己資本利益率」(有価証券報告書等)とか、「自己資本当期純利益率」(決算短信)と言われます。

大雑把にいって、利益÷自己資本によって計算し、資本がどの程度効率的に使用されているかを図る指標です。

前記1での事例は以下の通りでした。

事業②の方が投資額から得られた利益が多く(ROEが高く)、それを「資本が効率的に使用された」と表現します。

ROEは、株主のものである自己資本からどれだけの利益が生み出されているかを見る指標であり、株主目線の指標です。

前記1でも前記2でも、株主(オーナー)が登場しているのは、ROEが株主にとってとても意味のある数字だからです。

ROEは、株主の視点からみた収益性の指標である。株主が出資した資本をもとに、どの程度の利益をあげたのかを測定するのである。

(伊藤邦雄『新・現代会計入門』(日本経済新聞出版社、第4版、2020年3月)673ページ)

「会社は従業員のものである」と考える人にとっては重要度は低い指標です。

5 ROEの計算式

ネットで「ROE 計算式」で検索して出てきた計算式を実際に使うと、うまく計算できません。

実際はいくつかの計算式があるのです。

(1) 東証ROE(親会社株主利益÷期中平均自己資本)【実務】

この計算式で算出されるROEが実務上よく用いられます。

決算短信で表記されるROE(自己資本当期純利益率)はこの計算式で算出されています。

しかし、この計算式で算出するのはおかしいとの批判があります(太田康広『ビジネススクールで教える経営分析』(日本経済新聞出版社、2018年2月)130ページ以下)。

東証ROEの問題点①ー分母と分子が対応していない

分母と分子の対応関係がおかしいというのが問題点の1つです。

分母を自己資本としたのでは、分子の親会社株主利益とうまく対応しません。

東証 ROE の計算式で分母となっている自己資本は、株主資本にその他の包括利益累計額(AOCI*)を加えたものです。

分母に AOCI(その他の包括利益累計額)が入っているのなら、分子に親会社株主に帰属する OCI*(その他の包括利益)を入れる必要があります。分母に自己資本を取るのなら、分子は親会社株主包括利益が適切でしょう。この点、東証ROE には問題があります。

(太田康広『ビジネススクールで教える経営分析』(日本経済新聞出版社、2018年2月)131ページ)

*AOCI(Accumulated Other Comprehensive Income)=その他の包括利益累計額。過去又は現在の包括利益であって、まだ当期純利益に振り替えられていない部分のうち親会社株主に帰属する部分。

OCI(Other Comrprehensive Income)=その他の包括利益。包括利益のうち当期純利益出ない部分。

東証ROEは、分母に自己資本を使って包括利益に対応するような分母を使いながら、分子に包括利益に使っていないので、分母と分子がちぐはぐであるというのがこの批判の中身です。

伊藤レポートで有名な伊藤邦雄さんはこの見解についてこう言っています。

2011年3月期からは包括利益の表示が始まっており、 ROEの分子に包括利益を用いるということもありうるが、いまのところROEの分子は当期純利益で計算されている。

(伊藤邦雄『新・現代会計入門』(日本経済新聞出版社、第4版、2020年3月)674ページ)

分子に包括利益を使うのもいいけど、今のところは当期純利益でいいだろうというなんとも大人なコメントです。

東証ROEの問題点②ー分母を期中平均にしている

東証ROEの計算のマニアックなところは、分母の計算です。

もう一度計算式を見てみましょう。

この分母の(期首自己資本+期末自己資本)÷2とは何なのか?

これは、期首(前期末)と今期末の自己資本の平均ということです。

(例)

  • 期首自己資本:10億円
  • 期末自己資本:12億円
  • 平均自己資本:11億円

なぜ分母は、平均値を使うのか?

分子の利益は、1年間という一定期間の成績であり、フロー情報です。

それに対し、分母の自己資本は、ある1時点の値であり、ストック情報です。

分子の利益は、期間であり、線であり、フロー情報。

分母の自己資本は、時点であり、点であり、ストック情報。

分子と分母が対応していません。

そのため、分母を期首と期末の平均として、分子の「期間・線」にあった感じにしようぜということのようです。

期首と期末を足して2で割ったところで、ストック情報がフロー情報に変わるわけでもなく、かなりいいかげんな操作ですが、実務ではこの計算は広く使われています。

日本だけでなくアメリカでも平均値がよく用いられるそうです。

それでも東証ROEはよく使われる

Yahoo!ファイナンスではROEの数値が算出されています。

東証ROEの計算式が使われています。

(2) 普通のROE計算式(親会社株主利益÷期首株主資本)

ROE の分子に使う利益は、親会社株主利益です。

太田康広『ビジネススクールで教える経営分析』は、これが普通のROEだと言います。

親会社株主利益の正式名称は、「親会社株主に帰属する当期純利益」で、連結グループ全体が稼いだ税引後の当期純利益から「非支配株主に帰属する当期純利益」(非支配株主利益)を除いたものです。親会社株主利益によって、その企業の親会社株主に帰属する利益がどれくらいあるかがわかります。

分子の利益が親会社株主利益であれば、分母に使うべき資本は、株主資本です。投下資本利益率の計算にあたっては、分子の利益と分母の資本のあいだの意味をそろえておくことが重要です。元手の資本とリターンの利益とがチグハグでは意味のある指標になりません。ここで、親会社株主利益と対応関係にあるのは株主資本です。親会社株主利益を基準としたとき、株主資本に対してクリーン・サープラス関係が成り立ちます。 

期末の株主資本には、当期稼いだ利益が入ってしまっていますから、元手を意味するのは、本来は、期首の株主資本と考えるのが適切でしょう。期首資本100に対して、利益が 20 であれば、ROE は 20 %と考えるのが自然です。

(太田康広『ビジネススクールで教える経営分析』(日本経済新聞出版社、2018年2月)130ページ)

東証ROEとの違いは以下2点です。

  1. 分母は、東証ROEの「自己資本」ではなく、株主資本である。
  2. 分母は、東証ROEのように期中平均の値を取るのではなく、期首の値を使うべきである。

(3) よく見かける曖昧な計算式(当期純利益÷自己資本)【いいかげん】

ROEをググると、以下のような計算式で説明されています。

  ROE=当期純利益÷自己資本

これは雑な計算式であり、きちんとしたROEが算出できません。

ア 分子の「当期純利益」とは?

連結会計の会社で、子会社に非支配株主がいる会社では、分子に「当期純利益」を用いるのは適切ではありません。

イオン株式会社・有価証券報告書2020.2

上記のイオン株式会社の損益計算書の下から3番目の行と1番下の行を見てください。

「当期純利益」と「親会社株主に帰属する当期純利益」は別物なのです。

分母に自己資本を使ってROEを算出するなら、分子は「親会社株主に帰属する当期純利益」を使うべきです。

ただ、「当期純利益」と書いてあっても、実際には「親会社株主に帰属する当期純利益」を使うというのは、みんなやってることですので目くじらを立てることではありません。

イ 分母の自己資本はいつのもの?

よく見かける以下のROE計算式。

  ROE=当期純利益÷自己資本

「自己資本」はいつの時点のものなのでしょうか。

期首のものか?それとも東証ROEのような期中平均のものか?

解説がないサイトが多く見られます。

そうすると、「期末自己資本」を使っていると思われます。

これはちょっと変です。

たとえば、イオン株式会社のように2020年2月29日決算であれば、以下のように計算されます。

 ROE=2019年3月1日~2020年2月29日の純利益÷2020年2月29日時点の自己資本

投下資本からいくら利益が生み出されたのかを見るものなのに、この式ではそれができません。

ちなみに以下サイトはどれも上記のような雑な説明しかしていません。特にグロービスは、自己資本の説明もしておらず、極めて不親切です。

(4) その他のROE計算式(経常利益÷期中平均自己資本)【楽天証券】

楽天証券のスーパースクリーナーのROEでは、分子が純利益ではなく経常利益が使われています。

分母は東証ROEと同じです。

分子に計上利益を使うと、税金が控除されておらず、当期純利益よりROEが大きくなります。

楽天証券でROEを見る場合は東証ROEとはけっこう違う数字(大きなROE)になるため、注意が必要です。

(5) EPS(1株当たり利益)÷BPS(1株当たり自己資本)とするのはどうかのか【発展】

この項目は内容が細かいので、見出しを見てピンとこなかった人は読み飛ばすことをおすすめします。

ROEを、EPS÷BPSで割って計算することもできなくありません。

しかし、この場合、EPSとBPSがどうやって計算されているか中身を見ないといけません。

上記サイトのうち、マイナビニュースはBPSを「1株当たり自己資本」と説明していますが、野村証券はBPSを「1株当たり純資産」と説明しています。

純資産と自己資本では数字が違いますので、注意が必要です。

また、EPSは、翌期予想利益を用いて算出されるものを念頭において株価が判断されます。

EPSを見る際には、それが直近の実績値なのか、将来の予想値なのか注意が必要です。

また、EPSとBPSのそれぞれの分母となる発行済み株式数が両方とも同じなのか気をつけないといけません。

有報に載っているのEPS算出のための分母の発行済み株式数は、期中平均株式数です。

他方で、BPS算出のための分母の発行済み株式数は、期中平均ではありません。

次のイオン株式会社の有価証券報告書を見てください。BPSとEPSの計算について説明されています。

2020年2月期のBPSとEPSの算定に用いられた株式数は違います。

BPS:841,762千株

EPS:841,731千株

3万1000株ほど差があります。

イオンではあまり差がないと言えそうですが、他の会社では違いがより大きいこともありえます。

また、ここでのBPSは、「1株当たり純資産額」であり、「1株当たり自己資本」ではないので、EPS÷BPSで出すROEはあまり適切とは言えません。

6 純資産、株主資本、自己資本とは何か? | 知らないと正確にROEを計算できない

ROEの計算で登場する自己資本。

これに関係する概念の純資産と株主資本とあわせて説明します。

難しくはないですが、やや通向けの内容です。

貸借対照表概観

(1) 純資産

純資産とは、貸借対照表(バランスシート)上で、資産から負債を引いた差額のことです。

 資産-負債=純資産

バランスシートの右下に位置します。

昔は「純資産の部」は、「資本の部」と表記されていました。

現在は2005年12月に公表された企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」に従って「純資産の部」と表示されることになっています。

その背景については以下のような説明がなされています。

これまで貸借対照表で「資本の部」と表記していたものを「純資産の部」と表記する背景には、資本の部が単に払込資本と留保利益から構成されるのではなく、その他有価証券評価差額金や土地再評価差額金などの項目を多く含むようになった結果、資本の部がいったい何を表しているのか、わからなくなったという実情がある。

(伊藤邦雄『新・現代会計入門』(日本経済新聞出版社、第4版、2020年3月)303ページ) 

(2) 純資産、株主資本、自己資本をBSの実例から見る


上記は、イオン株式会社の2020年2月期の有価証券報告書のバランスシートのうち、「純資産の部」を引用したものです。

2020年2月期の純資産、株主資本、自己資本の値はいくらか?

答えは以下のとおり。

  • 純資産:1,849,278百万円
  • 株主資本:1,025,822百万円
  • 自己資本:1,064,516百万円

純資産は以下の赤線で囲んだ部分に書いてあります。

(3) 株主資本とは

株主資本は、BS上純資産の部の最初のパートとして表記されています。

株主資本は、ざっくりいって、株主が払い込んだ金額(拠出資本)と株式会社が稼いだ利益(稼得資本)の合計額です。

株主資本と構成要素の説明はこうです。

  • 株主資本とは、純資産のうち株主に帰属する部分であり、資本金や資本剰余金、利益剰余金などからなる。
  • 資本金とは、会社の設立や増資に際して株主が払い込んだ金額である。
  • 資本剰余金とは、資本の払込および減少、贈与ならびに資本修正から生ずる剰余金をいい、具体的には資本準備金とその他資本剰余金から構成される。
  • 利益剰余金は、企業がこれまで計上した利益のうち、株主への配当などで社外に流出されなかった利益の留保額を指す。

(以上伊藤邦雄『新・現代会計入門』(日本経済新聞出版社、第4版、2020年3月)302ページ)

上記のうち、資本金と資本剰余金が、拠出資本です。株主が払い込んだ金額を表します。

利益剰余金が、稼得資本です。株式会社が積み上げてきた利益を表しています。利益剰余金は、会社が赤字になったり、配当を出したりすれば減ります。

(4) 自己資本とは

自己資本とは、「株主資本」と「その他包括利益累計額」の合計です。

  自己資本=株主資本+その他包括利益累計額

純資産から新株予約権と非支配株主持分を控除しても求めることができます。

  自己資本=純資産-(新株予約権+非支配株主持分)

東証が上場廃止基準や利益率の算定に使うのはこの自己資本です。

自己資本の中にある「その他の包括利益累計額」とは何か。

これは、会社保有資産や負債の含み損益のことです。

「その他の包括利益累計額」の中に「その他有価証券評価差額金」というのがあります。

これは何か。

『その他の包括利益累計額』の中にある『その他有価証券評価差額金」というのは、会社が株式持ち合いで保有する株式の含み損益です。持ち合い株式とは、いわゆる政策保有株式です。売却したら顕在化する損益ですが、売却していないので簿価と時価の差額が評価差額金としてここに載ってきます。

(岡俊子『図解&ストーリー 「資本コスト」入門』(中央経済社、改訂版、2020年8月)98ページ)

会社が持っている資産の価値が上がれば、その価値上昇分は会社オーナーである株主に帰属すると考えるのです。

『その他の包括利益累計額』に計上されている他の科目も、『その他有価証券評価差額金」と同様、『含み損益』や『調整勘定」になります。
つまり「自己資本」には、確定分である「株主資本」に加えて、暫定的な株主の持ち分である含み損益を含んでいるということです

(同上)

7 ROEを実際に計算する

ROEを計算してみましょう。

イオン株式会社の2020年2月期のROEを算出します。

●BSの純資産の部

 ●PLの税前利益以下の部分

(1) イオン株式会社の2020年2月期のROE【東証ROE】

実務でよく使われる東証ROEの計算式。

ア 分子=26,838百万円

分子の「親会社株主利益」は、PLの中の「親会社株主に帰属する当期純利益」の値を用います。

26,838百万円です。

イ 分母=1,079,075百万円

分母の数値は、貸借対照表には直接は載っていないので、計算する必要があります。

自己資本の算出は以下2種類の計算式があります。

  ①自己資本=株主資本+その他包括利益累計額

  ②自己資本=純資産-(新株予約権+非支配株主持分)

期首(2019年2月28日)の自己資本を①足し算で出してみましょう。

  期首自己資本=1,047,490+46,145

        =1,093,635

期首(2019年2月28日)の自己資本を②引き算で出してみましょう。

  期首自己資本=1,875,364 – (1,960+779,768)

        =1,093,635

①と②の計算式どちらで出しても同じです。

期首自己資本は、1,093,635百万円。

では期末(2020年2月29日)の自己資本自己資本を①足し算で出してみましょう。

  期末自己資本=1,047,490+38,693

        =1,064,515

期末自己資本は、1,064,515百万円。

期首と期末の自己資本の平均値を取ります。

期中平均自己資本=(1,093,635+1,064,515)÷2

        =1,079,075

分母に使うべき自己資本の額は、1,079,075百万円です。

ウ 計算結果

イオン株式会社の2020年2月期の東証ROEは、2.5%です。

東証ROE =26,838÷1,079,075

    =0.024871…

    =2.5%

イオン株式会社の決算短信でも「自己資本当期純利益率」は、2.5%であると記載されています。 

同じくイオン株式会社の有価証券報告書でも、「自己資本利益率」は、2.5%と記載されています。

この計算が理解できたら、あなたは決算短信と有価証券報告書のROEがどう計算されているのか理解できたことになります。

(2) イオン株式会社の2020年2月期の普通のROE

参考として、イオン株式会社の2020年2月期の東証ROEではない普通のROEも算出してみましょう。

先に結論を言うと、普通のROEは、2.6%です。

東証ROEとあまり変わりません。

分子の親会社株主利益は、東証ROEと同じです。26,838百万円。

分母の期首株主資本は、東証ROEとは違います。1,025,822百万円。 

普通のROE=26,838÷1,025,822

     =0.0261

     =2.6%

***

いかがでしょうか。

サルでもわかるROEの説明ということで、ROEの意味や計算式を説明しました。

ROEを分解するとか、応用については触れず、基本的な計算式について詳しく説明しました。

ROEの基本的な計算式についてここまで突っ込んで具体例や実例を用いて説明した文献はあまり見たことがありませんので、初心者~中級者の参考になるとうれしいです。

*参考文献

 伊藤邦雄『新・現代会計入門 第4版 (日本経済新聞出版)』(2020年3月)

 太田康広『ビジネススクールで教える経営分析 (日経文庫)』(日本経済新聞出版社、2018年2月)

 岡俊子『図解&ストーリー「資本コスト」入門(改訂版)』(中央経済社、2020年8月)

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