「赤ちゃんが小さいうちに英語を聞かせておけば、脳が英語の音になれて、リスニングが余裕になったり英語ペラペラになるのに役立つのでは?」
こんな期待を持つ親は多そうです。
小さいうちに英語を。最も若い0歳児に対する英語聞き流しの効果はあるのか。
先に結論。
0歳児に英語の聞き流しは効果がありません。
無駄に高額英語教材にお金を使ってしまわないようにし、有効利用しましょう。
1 0歳児に効果的な英語学習
子どもの方が言語学習において有利、特に音の習得については有利というのはそのとおりです。
私の知り合いを見ても、日本人で海外に住んでいた時期が、小学校、中学校、高校、大学、と異なる場合、若ければ若い時の方が英語の流暢性が高いように思います。
そう考えると、就学前の幼児期に英語の勉強をさせたいという親の気持ちは当然といえます。
赤ちゃんのうちに英語に親しめばペラペラになれるだろうと思う。
問題は、どうすればよいかという方法論です。
テレビの英語ニュース等を常時流しっぱなしにすればよいのでしょうか。
そういう簡単なものではありません。
英語を母語としない子どもに、赤ちゃんのときから英語を始めさせれば、どのような環境でも、どのようなやりかたでも、音の聴き分けや文法が英語ネイティヴのようにできるようになるか、というと決してそうではない。
今井むつみ『英語独習法』(岩波書店、2020年12月)186ページ
赤ちゃんは、どんな形であれ英語を聞いていれば英語ネイティブになれるかというとそんな簡単ではないということです。
上記の引用書籍『英語独習法』の著者である今井むつみさんは、「ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。現在は慶應義塾大学環境情報学部教授。専攻は認知科学、言語心理学、発達心理学」という他の英語勉強本の著者とはかなり異なるガチな著者です。
その今井さんは、「DVDなどのメディア視聴ではダメ」と断言しつつ、赤ちゃんが英語の音を習得する最低条件を2つ挙げています。
たとえば、rと1を聴き分ける能力を残すためには、DVDなどのメディアの視聴ではダメで、英語母語話者と対面でいっしょに遊びながら英語に接しないと効果がないということが研究からわかっている。
つまり、大人の日本語話者ができない微妙な音の聴き分けができるには、少なくとも二つの条件が満たされなければならない条件① 年齢が1歳未満であること。
今井むつみ『英語独習法』(岩波書店、2020年12月)186-187ページ
条件② 週に何度も英語母語話者と対面で遊ぶ機会があること(ビデオや遠隔でのふれあいでは効果が見込めない)。
ここで重要な条件が2つ出てきました。
赤ちゃんが英語の音に習熟するための最低限の条件
条件① 年齢が1歳未満であること。
条件② 週に何度も英語母語話者と対面で遊ぶ機会があること(ビデオや遠隔でのふれあいでは効果が見込めない)。
「ビデオや遠隔でのふれあい」もダメなら、当然聞き流し教材も「効果が見込めない」。
2 子どもは英語を余裕に習得できるという誤解
子どものうちの方が英語学習には有利だからといって何でもできるわけではありません。
多くは大人の勝手な思い込みや都市伝説の類です。
子どもが言語習得に非常に長けていることは間違いない。しかし、そこから、二つの思い込み(神話)が生まれた。
今井むつみ『英語独習法』(岩波書店、2020年12月)183ページ
子どもを被害者にしてしまう勝手な「英語は子どものうちに神話」2つは以下2つです。
「英語は子どものうちに」という思い込み
- 日本語を母語とする子どもに英語を(どんな形でも)触れさせさえすれば、子どもは日本語と同じように英語も楽に習得する。
- 大人になってしまうと英語の習得がうまくできなくなる。
今井さんはこれらは「明らかに誤り」な思い込みであると指摘しています。
これらの思い込みは科学による検証をまたずとも明らかに誤りである。高校生以降に日本語を学び始めて日本語を使いこなしている外国の人たちは、今どきまったくめずらしくないし、幼少期を海外で過ごして現地の言語を流暢に話していても、日本に帰って時間がたつとその言語をすっかり忘れてしまう日本語話者もたくさんいるのだから。
今井むつみ『英語独習法』(岩波書店、2020年12月)184ページ
今井さんの言う通り、高校や大学で海外にいて英語を流暢に使いこなす人はたくさん見かけます。
本人たちはネイティブとは思っていないかもしれないですが、ずっと日本にいた人からすればネイティブと遜色ないくらいのレベルがあるように見える人もいます。
他方で、昔小さい頃に少し海外に住んでいた、というだけであまり外国語が身についていない人もいます。
私の知り合いでもそういう人の話を聞いたことがあります。
ある人は、小学校に入る前に韓国に住んでいて、当時は幼児でペラペラ韓国語をしゃべっていたそうです。しかし、その後日本に戻り、一切韓国語を使わなくなった。
大人になった今では一切韓国語はしゃべれないそうです。
言語を全く使わないとその言語の能力は喪失してしまう言語摩擦の例です。
英語等の言語学習は、子どものうちにちゃちゃっと習得しておけばよいという類のものではなく、時間をかけて習得しなければなりません。
小さい子が英会話教室に行くがその後英語の使い手として大成しなかった例は日本中ありふれているはずです。それなのになぜ「子どものうちに英語は絶対」という思い込みが蔓延してしまったのでしょうか。
なぜこのような思い込みが生まれたのか。人は、あることを聞くと、それを自分の推論と願望を交えて拡張し、思い込みを作る性をもっている。子どもがなぜさが言語の学習に長けているのかを認知のしくみから理解していないので、さまざまな憶測が神話を生んでしまうのだ。
今井むつみ『英語独習法』(岩波書店、2020年12月)184ページ
「自分は英語ができないから子どもは英語ができるようにさせたい」という願望を持ち、子どもがスポンジのように簡単に学ぶという自分の推論を交えて英語学習にも拡張してしまうというのが神話が根強く信じられる理由です。
3 聞き流し神話の語り手は誰か
子どもの英語学習を正しく指導する人は、認知の仕組みを知り、かつ、騙されないようにしなければなりません。
効果が認められない「赤ちゃんに英語聞き流し」神話の語り手は誰でしょうか?
神話が信じられて利益を得る人は?
英語教材を売っている人達です。
英語教材の売り手は、英語コンプレックスを抱える多くの親が「いかにも信じそう」な子ども英語神話を利用して、売れる教材を販売しています。
売る教材は「英語力が身につく教材」である必要はありません。親が信じる神話に沿ったそれらしい教材であればよいのです。
効果がない教材を誰が買うのか?
英語学習リテラシーのない親です。絶好のカモです。
カモになって子どもが英語ができるようになるなら英語学習熱の高い親はみんな喜んでカモになるでしょう。しかし問題は、カモになっても効果は上がらないということです。
無駄なことにお金と時間を費やすことになってしまいます。
4 どうしても0歳児に英語を学ばせたいならこうする
子どもが英語を習得する上で素質があることはそのとおりです。
そんな子どもが英語に習熟するにはどうしたらよいでしょうか。ここでポイントを再掲します。
赤ちゃんが英語の音に習熟するための最低限の条件
条件① 年齢が1歳未満であること。
条件② 週に何度も英語母語話者と対面で遊ぶ機会があること(ビデオや遠隔でのふれあいでは効果が見込めない)。
これらの最低条件2つを満たせば、日本人が苦手な英語の音について赤ちゃんは習熟しうる。
どうすればよいのか?
赤ちゃんは1歳未満のうちが勝負。
英語のネイティブスピーカーと週に何度も対面で遊ばないといけません。
そうすると英語ネイティブスピーカーのベビーシッターとか家庭教師を週に何度も呼ぶのがよさそうです。