テレビでよく聞くアメリカの「FRB」とはどんな組織なのか。重要会議として登場するFOMCとは。
利上げがどうとか経済ニュースでは頻繁にFRBのパウエル議長が登場します。
「FRBが何か知ってるかって?まぁ、アメリカの中央銀行で金利上げたり下げたりしてるところだよね」という知ったかぶりになるのを避けるべく、アメリカの中央銀行の仕組みを紹介します。
日銀という1つの組織がある日本と比べるとやや複雑な制度です。
ニュースや新聞で気になった時に本記事を参照すると理解が進みます。
アメリカの中央銀行:連邦準備制度(the Federal Reserve System; FRS)
アメリカの中央銀行というと、テレビではよくFRBが紹介されていますが、厳密にはFRS(Federal Reserve System)が正しいというべきでしょう。
FRBのウェブサイトでは以下のように説明されています。
FRS(the Federal Reserve System、連邦準備制度)はアメリカ合衆国の中央銀行です。
The Federal Reserve System is the central bank of the United States.
Federal Reserve Board – About the Fed
この後に、アメリカ中央銀行の各組織が色々出てきますが、FRSを中央銀行というべき。
日銀やイングランド銀行(BOE)などに対応する組織としてのアメリカの中央銀行は、FRS、FRB、各地区連銀、FOMCのうちどれなのだろうか。中央銀行業務全体を包含するFRSがこれに当たると考えるのが妥当だろう。
田中隆之『アメリカ連邦準備制度(FRS)の金融政策』(きんざい、2014年9月)5ページ
(1) FRSの構成
FRSは、「連邦準備制度」と、「制度」と名付けられているように、特定の1つの組織ではありません。
以下2種類の組織から構成されます。
FRS = 連邦準備理事会(FRB)+連邦準備銀行
連邦準備は、ワシントンD.C.にある連邦準備制度理事会と全国主要都市にある12の地区連邦準備銀行(地区連銀)から構成されている
N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学I マクロ編』(東洋経済新報社、第4版、2019年10月)350ページ
厳密には、連邦準備制度は2つの組織からなる。連邦準備理事会(FRB、連邦準備制度理事会とも訳される)と12の連邦銀行(連銀)だ。
ポール・クルーグマン=ロビン・ウェルス『クルーグマン マクロ経済学』(東洋経済新報社、第2版、2019年9月)551ページ
FRBによる公式FRS解説本のThe Fed Explainedでは、FRBと連銀にFOMCを加えたこれら3つをFRSの重要組織と説明していますが、上記のマンキューやクルーグマンの説明のとおり2つから構成されると捉えた方がわかりやすい。
FOMCが何者かは後述します。
(2) FRSの通称は”the Fed”(フェッド)
このFRSは、ニックネームというか通称ではよく”Fed”(フェッド)と呼ばれています。
FRBの公式ウェブサイトでもFedと自認しているので、アメリカ人と中央銀行について話すときは、”FRS”と言うよりも”the Fed”を使った方がよいでしょう。
Federal Reserve Board – About the Fed
しかし、実際はFedもあれこれ多義的に使われることがあるので注意が必要です。
以下の説明は、本記事を最後まで読んでから読み直すとわかる内容だと思いますので、読み飛ばしていただいてOKです。
Fed(「フェド」)という略称があり、かなり幅をもったあいまいな、しかし便利な使われ方をしている。アメリカの新聞報道や各国の金融為替市場参加者の間では、金融政策の決定主体を指すことが多い。この場合にはFRBやFOMCを指しているわけだが、連邦準備制度全体、つまりFRSを指して使われることもある。また、ニューヨーク地区連銀のことを「ニューヨーク・フェド」などと呼ぶのも一般化しており、この場合には連銀を指すことになる。
田中隆之『アメリカ連邦準備制度(FRS)の金融政策』(きんざい、2014年9月)5ページ
FRBとは
FRSを構成する組織の1つであるFRB。
FRBの正式名称は、Board of Governors of the Federal Reserve Systemであり、実は”Federal Reserve Board”ではありません。
FRBの日本語訳は、連邦準備理事会または連邦準備制度理事会。
(1) FRBの役目と概要
FRBの役目は、連邦準備制度の運営です。
The Board of Governors is the governing body of the Federal Reserve System
The Fed Explained: What the Central Bank Does (federalreserve.gov)
以下の役割を担っています。
- 内外経済金融情勢の分析
- 地区連銀業務の規制監督
- 決済機構の円滑な運営
- 金融上の消費者保護
FRBは、ワシントンD.C.にオフィスがあります。
住所は、20th Street and Constitution Avenue N.W., Washington, DC 20551。
(2) FRBのメンバー
FRBは7名の理事によって構成されます。
理事は、大統領によって任命され、その任命について連邦議会上院で承認されます。
理事の任期は、14年と長期間です。
金融政策の決定において近視眼的な政治圧力からの独立性を保つために、長い任期を与えられている
N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学I マクロ編』(東洋経済新報社、第4版、2019年10月)350ページ
各理事の任期はそれぞれ2年ずつずらされています。
それぞれの任期は、偶数年の1月31日に任期切れとなるように2年ずつずらされている。任期を全うした後の再任は許されないが、任期途中で辞任した理事の残りの期間を務めた理事に関しては、再任が認められる。
田中隆之『アメリカ連邦準備制度(FRS)の金融政策』(きんざい、2014年9月)6ページ
(3) FRBの議長(Chair) 現在はジェローム・パウエル
FRBの7名の理事の中の最重要人物は議長(Chair)です。
議長は、「議長は連邦準備のスタッフを監督し、理事会の議長職を務め、定期的に連邦議会(の委員会)において連邦準備の政策に関する証言を行」います(『マンキュー経済学マクロ編』350ページ)。
議長は、大統領によって任命されます。
議長の任期は、4年です。再任もあり、アメリカ大統領のように2期8年という制限もありません。
実際は再任があるので4年を超える任期をつとめるのが普通だ。たとえば、ウィリアム・マックチェスニー・マーティンJr.は1951年から1970年にかけて連邦準備理事会の議長をつとめたし、アラン・グリーンスパンは1987年から2006年までその任に就いていた。
ポール・クルーグマン=ロビン・ウェルス『クルーグマン マクロ経済学』(東洋経済新報社、第2版、2019年9月)552ページ
現在のFRB議長はジェローム・パウエルです。
パウエル議長は、2018年2月に議長に任命され、2022年5月に再任されました。2026年まで任期が残っています。
パウエル議長は、理事としては2014年6月に任命されており、理事の任期は2028年1月31日までです。
パウエル議長は、1953年にワシントンD.C.で生まれました。
1975年にプリンストン大学で政治学の学士号を取得し、1979年にジョージタウン大学で法学の学位を取得しています。経済学ではないんですね。
パウエル議長は、元弁護士であり、投資銀行でも働いていました。1997年から2005年までは名高い投資会社であるカーライル・グループのパートナーでもありました。
ブッシュ政権下では、財務次官補および次官を務め、金融機関、財務省債券市場および関連分野の政策に携わっていました。
なお、FRB議長は、安全上の理由から自分で自動車を運転することが許されていません。
ガードマンが運転する。そしてガードマンは常に議長を守るそうです。
かつてのFRB議長であるアラン・グリーンスパンさんはそうした厳重警備体制をこう表現したそうです。
ものすごく親切な看守の監視のもと、自宅軟禁されるようなものだ。
FRB議長と自動車の運転や警備については、ベン・バーナンキ元FRB議長の回顧録より。
(4) FRB=FRS?一般的には「FRB」と言われる
日本でニュースを見ていると、アメリカの金融政策の決定主体として「FRS」はほとんど出てきません。
耳にするのはFRBの方です。
日本では、アメリカの金融政策当局を指す場合に、慣例としてFRBの語を使うことが多いように思われるが、これは厳密にはワシントンに置かれた理事会を指す言葉だ。
田中隆之『アメリカ連邦準備制度(FRS)の金融政策』(きんざい、2014年9月)5ページ
一般的に、FRBと言えばそれはFRBのこともFRSのことも指す用語として用いられることが多いとされています。
連邦準備制度(FRS)と連邦準備理事会(FRB)はすでに述べられているように厳密には異なるものだが、一般には両者を区別せず、ともにFRBと呼ばれることが多い
ポール・クルーグマン=ロビン・ウェルス『クルーグマン マクロ経済学』(東洋経済新報社、第2版、2019年9月)553ページ
FRSはあくまで「システム」「制度」なので、「FRSは●●を決定した」という主語として使いにくいからかもしれません。
新聞やニュースを見て、「FRB」とあれば、FRSのことを言っているのかFRBのことを言っているのか、あるいは後述のFOMCのことを言っているのか考えれば制度の理解が深まります。
(5) FRBの設備
FRB建物内の設備についてバーナンキが少しだけ語っています。
ア カフェテリア
長官や連邦議会の議員、国際公務員と昼食を取るとき以外は、理事時代にいつもそうしていたようにFRBのカフェテリアに行き、トレイを持って列に並び、空いている席を見つけたテーブルで食事をした。いまは議長だったが、あらゆるレベルの職員の声を聞き続けるのは大事なことだと思っていたのだ。
ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)159ページ
FRB議長もカフェテリアでトレイを持って並ぶんですね。
イ バスケットボールコート
運動のために週に何度かはFRBの小さなジムでローイングマシンを漕ぎ、ウェイトやショットバスケットで汗を流した。バスケットボールのコートはスカッシュのコートを改修したもので、2対2のゲームまでしかできなかった。
ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)160ページ
FRBにも小さいながらジムがあるようです。
バスケットボールコートもあるんですね。しかし、スカッシュのコートを改修しただけで相当狭そうです。
ウ 理髪店
FRBの建物の中には理髪店もあるそうです。
FRB議長には24時間ガードマンがつくくらいですから、警備上の理由からFRB内で髪を切らなければならないのかも。
私は理事会の理髪店で、名刺によれば「FRB髪長(ヘアマン)」であるレニー・ギレオに散髪と顎の手入れをしてもらった。レニーはマーティンビルの地下に小さな店を借りていて、私が2002年に理事会メンバーになって以来、私の残っている髪を切っている。彼は、私の前任のアーサー・バーンズ、ポール・ポルカー、アラン・グリーンスパンの髪を切り、政治、通貨政策と野球についての知恵を供給した。店の壁には「私の通貨供給量は、あなたの髪の成長率に依存している」という言葉が掲げてある。
ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)246ページ
FRBの理髪店だけあって店の壁にある言葉も経済学的、金融政策的です。
連邦準備銀行(連銀)とは
FRBとともにFRSを構成するもう一つの組織が、連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)です。
(1) 12の連邦準備銀行
連邦準備銀行は以下12か所に所在しています。
01-ボストン(Boston)
02-ニューヨーク(New York)
03-フィラデルフィア(Philadelphia)
04-クリーブランド(Cleveland)
05-リッチモンド(Richmond)
06-アトランタ(Atlanta)
07-シカゴ(Chicago)
08-セントルイス(St. Louis)
09-ミネアポリス(Minneapolis)
10-カンザスシティ(Kansas City)
11-ダラス(Dallas)
12-サンフランシスコ(San Francisco)
12の連邦準備銀行は、上記地図の色分けのとおり、アメリカ国内の各地区(連邦準備区)を担当区として持っています。
たとえば、12番のサンフランシスコ連銀は、サンフランシスコやカリフォルニア州だけでなく、ワシントン州やアラスカ州も担当しています。
(2) 連邦準備銀行の役目
FRSの役目のうち、銀行の規制や銀行システムの健全性の維持は主に連邦準備銀行によってなされています。「いかにも中央銀行」ということを連銀が行っています。
地区連銀は各銀行の財務内容を監視し、小切手の決済システムを提供することで銀行間の取引を容易にしている。また、中央銀行は銀行の銀行でもある。つまり、民間銀行そのものが借金したい場合には、中央銀行から借り入れるのである。財務内容の悪化した銀行が現金の不足(資金繰り問題)に直面すると、中央銀行は最後の貸し手として行動する。他から借金することのできない借り手に対する貸し手の機能を果たすことで、銀行システム全体の安定性を保つのである。
N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学I マクロ編』(東洋経済新報社、第4版、2019年10月)350ページ
各連銀は、以下のようなそれぞれの担当連邦準備地区(Reserve District)における中央銀行としての立場を有しているのです。
- 決済機構の運営
- 紙幣とコインの発行
- 加盟銀行と銀行持株会社の規制監督
- 連邦政府の預金を預かる
- 地区の亀李宜孝の準備預金を預かる
- 地区内に適用される公定歩合の水準を決定する
(3) ニューヨーク連銀は別格の存在
連邦準備銀行は12存在しますが、その中でニューヨーク連銀は特別な存在です。
後述するFOMCにおいては、ニューヨーク連銀は他の連銀とは違った明らかな格上として位置づけられています。
なぜニューヨーク連銀だけ特別扱いしてもらえるのか?
なぜならば、ニューヨークは伝統的にアメリカ経済の金融の中心地であり、連邦準備の国債売買はすべてニューヨーク連銀の取引デスクによって実施されるからである。
N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学I マクロ編』(東洋経済新報社、第4版、2019年10月)352ページ
FRBが行う超重要な金融政策に公開市場操作があります。
公開市場操作では何をするかというと、FRBが市中銀行を相手としてアメリカ国債を売買することです。
FRBは国債の売買を通じて金融政策を実行しています。
この国債の売買を実行するのは、ニューヨーク連銀です。
(4) FRBと地区連銀の微妙な力関係
「FRBと地区連銀はどちらが偉いのか?」
素朴にこんな疑問が湧きます。
地区に区切らないFRBの方が格上な感じがします。しかしアメリカは連邦制であり、各連銀も偉い。
各地区連銀は所轄する担当区を持っていることから、それぞれの地区の金融政策については上(FRB)からあまり口出しをされたくない。
そんなFRBと連銀の何とも言えない関係について、元FRB議長のベン・バーナンキが自らの回顧録で語っています。
12ある地区連銀がすべて平等で一貫性のある規制を敷くようにするのは、FRBの永遠の課題であり、非常に困難なことでもあった。
ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)128ページ
各地区連銀は誇り高き存在なのです。
中央から監督するぞ、というFRBがいて、「事件は現場で起こっている」という地区連銀がいます。両者は相容れない視点を持っているようです。
最終的に銀行監督の責任を負うのはFRBなのだが、連には地元の銀行を細かく把握している検査官がいる。彼らにはFRBよりも地元の経済状況に精通しているという自負があり、ワシントンからの指示に対してしばしばいら立ちを隠さなかった。2005年には、銀行規制をより中央集権化しようとしたスー・バイズ(注 FRB理事の1人)の提案を、連銀総裁たちが団結して阻止したほどだ。
同上
FOMCとは
FOMC(the Federal Open Market Committee; 連邦公開市場委員会)は、FRBメンバー7人と連銀総裁5人からなる金融政策に関する意思決定を行う会議体です。
(1) FOMCの役割
「FOMCは、国の金融政策を決定するFRSの機関です。FOMCは、フェデラルファンドレート(預金取扱機関が相互に貸し付ける金利)に影響を与える公開市場操作の実施、連邦準備制度の保有資産の規模および構成、金融政策の将来的な方向性に関する国民とのコミュニケーションに関するすべての決定を行います。議会は、1933年と1935年に連邦準備制度の一部としてFOMCを創設する法律を制定しました」(以下FRBウェブサイト訳)
The FOMC is the body of the Federal Reserve System that sets national monetary policy. The FOMC makes all decisions regarding the conduct of open market operations, which affect the federal funds rate (the rate at which depository institutions lend to each other), the size and composition of the Federal Reserve’s asset holdings, and communications with the public about the likely future course of monetary policy. Congress enacted legislation that created the FOMC as part of the Federal Reserve System in 1933 and 1935.
Federal Reserve Board – Federal Open Market Committee
(2) FOMCの構成
FOMCは、FRB理事と連邦準備銀行の総裁が委員となって組織されます。
The Fed Explainedでは、FOMCは、FRBと連邦準備銀行と並ぶ3つのFRSの重要組織だとされています。
FOMCの委員は、全員で12名です。
12名の構成のルールは以下のとおりです。
- FRBの理事7名は全員が必ずFOMCの委員になります。
- ニューヨーク連銀の総裁は必ずFOMCの委員になります。
- 残る4人の委員は、ほかの11の連銀総裁が1年任期の持ち回りで担当します。
- 委員ではない連銀総裁もFOMCの会合には参加者(Participants)として出席します。しかし、参加者であって委員ではない連銀総裁7名は、投票権がありません。
前述したとおり、ニューヨーク連銀は連銀の中で別格なのです。
慣例として、FOMCの議長はFRB議長が務め、副議長はニューヨーク連銀総裁が務めます。
FOMCの内部組織は法律で決められており、伝統的にFOMCは議長にFRB議長、副議長にニューヨーク連邦準備銀行総裁を選任しています。
By law, the FOMC determines its own internal organization and, by tradition, the FOMC elects the Chair of the Board of Governors as its chair and the president of the Federal Reserve Bank of New York as its vice chair.
Federal Reserve Board – Federal Open Market Committee
細かい話ですが、ニューヨーク連銀以外の11の連銀総裁のFOMC委員就任にはルールがあります。
ニューヨーク連銀以外の11連銀は以下4グループに分けられ、各グループから毎年1名の総裁がFOMCの委員に就任します。
第1グループ:クリーブランド、シカゴ
第2グループ:ボストン、フィラデルフィア、リッチモンド
第3グループ:アトランタ、ダラス、セントルイス
第4グループ:ミネアポリス、カンザスシティー、サンフランシスコ
第1グループだけは2者しかいませんので、クリーブランド連銀とシカゴ連銀の総裁は、1年おきにFOMC委員に就任します。
それ以外のグループに所属する連銀総裁は、3年に1度委員になります。
(3) FOMCの開催頻度、開催場所、開催期間
FOMCは、「会合」ですので、FRB理事と連銀総裁が出席して会議が開かれます。
FOMCは、通常は年8回開催されます。必要に応じて8回より多く開催されることもあります。
会議の場所は基本的にはワシントンDCです。
開催期間は、通常は1日ですが、2月と8月の会合では2日間開催されます。議会に提出される経済見通しが審議されるためです。
たまに通常よりも長い期間開催されることもあります。
たとえば、2008年の12月には、同年9月のリーマンブラザーズの破綻等があった金融危機に対応するため2日間開催されています。
(2008年)12月16日のFOMC会合はきわめて重要だったので私は期間を2日に増やし、12月5日の月曜日から始めた。
ベン・バーナンキ『危機と決断(下)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)141ページ
(4) FOMCの会合の流れ
FOMCの通常の会合の流れは以下のとおりです。
- 当日朝:会合開始
- 午後2時過ぎ:結果の概要が公表文(Policy Statements)として発表される
- 3週間後:議事録要旨(Minutes)が公開される
- 5年後:筆記録(Transcripts)が公開される
ア 当日の会合
元FRB議長のベン・バーナンキは、自らの回顧録で初めて理事としてFOMCに出席した2002年8月13日を振り返っています。その中で会合当日の冒頭部分の流れが紹介されています。
FOMCメンバーのほか、発言予定のある4、5人のスタッフも会議テーブルにつく。会合は、FRBの証券取引(「公開市場」で実行される)を管轄し、市場参加者と緊密に連絡を取り合っているニューヨーク連銀取引デスク(公開市場取引デスク)のヘッドによる、最新の金融市場動向サマリーからはじまる。当時のヘッドはディノ・コスだった。それから、FRB調査統計局長(デービッド・ストックトン)、国際金融局長(カレン・ジョンソン)がスタッフによる国内外の経済予測に基づいてプレゼンを行う。その後、金融政策局長(ビンセント・ラインハート。ドン・コーンの後を引き継いでいた)がブルーブックに示される政策の選択肢について説明する。この3局長の影響力は非常に大きいもので、1990年代半ばにFRB副議長を務めたアラン・ブラインダー(プリンストンでの同僚でもある)は彼らに「大立者たち」というあだ名をつけていたほどだ。
ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)84ページ
以下プレゼンがお決まりで実施されると書かれています。
- FOMC会合のはじめは、ニューヨーク連銀取引デスク(公開市場取引デスク)のヘッドの最新の金融市場動向サマリーから。
- 調査統計局長によるプレゼン
- 国際金融局長によるプレゼン
- 金融政策局長によるプレゼン
やはり連銀の中でニューヨーク連銀は特別なんだということがわかるとともに、3局長が重要なポストであるということもうかがい知れます。
その後の会合の流れは以下のようであったと語られています。
会合の最初のアジェンダは金融市場と経済見通しについてのスタッフ・ブリーフィングと、それに続く19名の会合メンバーと地区連銀総裁による質問だった。その後は、会合参加者が順番にそれぞれの経済見通しを四、五分間かけて話す(エコノミック・ゴーラウンド)。地区連銀総裁はまず自分の管轄地区の景気状況を報告してから、国内経済全体に関する見通しを述べるパターンが多かった。地区連銀総裁たちの後にFRB理事が話し、それから副議長(マクドナー)、最後にグリーンスパンが締めくくる。一時期、この19名のスピーチが人によってはおざなりになってしまったことがあり批判を浴びた。FOMCは1994年、当時下院金融サービス委員会委員長だったヘンリー・ゴンザレス議員の要求に応じて、会合開催五年後にその議事録をすべて公開することに同意した。それ以来、会合参加者のほとんどは準備してきた原稿を読み上げるようになった。透明性という観点からは改善されたが、議論の質と自発性という意味では残念なことだ。
ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)85ページ
イ 会合開催後5年後の議事録公開
FOMCの議事録公開は昔からそうやっていたわけではなく、1994年にそうされると決められました。
FOMCは1994年、当時下院金融サービス委員会委員長だったヘンリー・ゴンザレス議員の要求に応じて、会合開催五年後にその議事録をすべて公開することに同意した。
ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)85ページ
(5) FOMCの会合資料 | ベージュブック、グリーンブック、ブルーブック
FOMCの会合で使用される資料はたまにニュースで出てきますので概要を紹介します。
FOMCの前には「スタッフが用意してくれた膨大な参考資料」を参加者は渡されます(ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)82ページ)。
資料 | 作成者 | 内容 |
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ベージュブック | 地区連銀スタッフ | 連銀各地区の実体経済情報が記載されている。会合の2週間前にFOMCメンバーに配付されると同時に公開される。 |
グリーンブック | FRBの調査統計局 | アメリカ経済の現状と見通しを記したもの。国内外の経済状況に関するデータや分析、スタッフ予測が載っている。会合のある週に参加者に配付される。公開は5年後に筆記録と同時に行われる。もっとも、3週間後に公開されある議事録要旨に要約が掲載される。市場参加者はこの要約に注目している。 |
ブルーブック | FRBの金融政策局 | 金融市場の情勢や金融政策がもたらした影響力をレビューしたもの。金融政策の選択肢を提示するもので、金利引上げ、据置き、引下げの選択肢につき、そのメリットとデメリットが客観的に示される。会合の1週間前に参加者に配付される。公開は5年後である。 |
これらのスタッフ作成の資料は極めてレベルが高いとベン・バーナンキは回顧録で述べています。
スタッフ予測は、民間企業のアナリスト予測と同様、論理的であるばかりでなく芸術の域に達していた。スタッフエコノミストによる分析はまた、標準的なデータには表れないが経済に影響をおよぼすであろうさまざまな出来事を選別して載せてくれていた。
ベン・バーナンキ『危機と決断(上)前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』(KADOKAWA、2015年12月)82ページ
(6) FOMCは会議で何を決定しているのか
FOMCが決定するのは、主にFRSの金融政策の中心的な手段である公開市場操作の方針です。
「FOMCは、連邦準備制度理事会が米国の金融政策を実行するための主要な手段である「公開市場操作」を監督する責任を負っています。これらの操作は、フェデラルファンドレートに影響を与え、それが全体的な金融・信用状況、総需要、そして経済全体に影響を与えます。」(以下FRBウェブサイト訳)
The FOMC is charged with overseeing “open market operations,” the principal tool by which the Federal Reserve executes U.S. monetary policy. These operations affect the federal funds rate, which in turn influence overall monetary and credit conditions, aggregate demand, and the entire economy.
Federal Reserve Board – Federal Open Market Committee
FOMCは、簡単に言うと、アメリカに出回るドルの量を決定しています。
FOMCの決定を通じて、連邦準備は経済のなかのドルの量を増減させることができる。単純化したたとえ話としては、連邦準備がドル紙幣を印刷してヘリコプターを使って全国にばらまいていると想像してもかまわない。同様に、連邦準備が巨大な掃除機を使って、人々の財布からドル紙幣を吸い取っていると想像してもかまわない。実際に貨幣供給を増減させる方法は、もっと複雑で精巧なものである。しかし、ヘリコプターと掃除機のたとえは、金融政策の意味を理解するための第一歩として有用である。
N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学I マクロ編』(東洋経済新報社、第4版、2019年10月)351ページ
具体的にどうやってドルの量を増減させているかは、政策金利であるFFレートの誘導目標水準を決定することによります。
その決定がニューヨーク連銀に伝えられ、政策金利の誘導のための公開操作がニューヨーク連銀によって実施されます。
会合での決定の結果、公開市場操作の方針が、ニューヨーク連銀の公開市場操作担当支配人に指令書(directive)のかたちで伝えられる。形式上は、この内容が最も重要だ。
田中隆之『アメリカ連邦準備制度(FRS)の金融政策』(きんざい、2014年9月)13ページ
これはニュースでよく見る「アメリカの利上げ・利下げ」のことなのですが、それについてはまた別記事で説明したいと思います。
政策金利の誘導目標水準の決定以外もFOMCは決定しています。
2008年に非伝統的金融政策に踏み込んでからは、事実上FFレートの変更ではなく、資産の買入れその他の手段が使われており、FOMCではそれらに関する決定も行われている。
田中隆之『アメリカ連邦準備制度(FRS)の金融政策』(きんざい、2014年9月)12ページ
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金融政策はマクロ経済学の知識があると理解しやすい、というか知識がないと理解が難しいので、興味がある人は勉強するのがおすすめです。
マクロ経済学の基本知識と本記事のFRS知識があればFRBのニュースが興味深く感じられる経済知識人ビジネスパーソンになれます。
▼経済学を学んだことのない人が経済学を学ぶには