プロテインパウダー等のタンパク質補給サプリメント(以下単に「プロテイン」といいます。)は体に悪いのか?
あまり良くない。
むしろ、老化防止や健康長寿の観点からは望ましくない。
ハードなトレーニングをするアスリート等を除いて、成人がプロテインを摂取するのは、得られる大きなデメリットに比較してメリットが小さい。
以下のような最新の健康長寿研究者による書籍をベースにプロテインについてまとめてみました。
プロテインは老化を進める
アンチエイジング(老化防止)や健康長寿を目指すうえで、プロテインは障害になるかもしれません。
(1) カゼインがオートファジーを抑制する
プロテインに含まれるカゼインは、老化抑制に重要な役割を果たすオートファジーを抑制してしまいます。
そのため、カゼインを取れば老化促進につながります。
カゼインプロテインを摂取するとIGF-1が分泌される(その結果、mTORが活性化され、オートファジーが抑制される)。カゼインは免疫反応を誘発することもあり、その場合、体内の炎症レベルも上昇する。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)117ページ
オートファジーとは、「老化を進めないためのクリーニングシステムと言ってもいい」(樂木宏実『老化はこうして制御する 「100年ライフ」のサイエンス』(日経BP、2020年11月)58ページ)とされるアンチエイジングで注目されている体内のシステムです。
オートファジーについては以下のように説明されています。
オートファジーとは、厳しい環境下で細胞が死滅を免れるために、自らを構成する要素のうち重要性の低いものを分解することをいう
デビッド・A・シンクレア『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』(東洋経済新報社、2020年9月)原注44
オートファジーとは、細胞内で損傷・老化して有害な影響をもたらす細胞小器官(細胞内でさまざまな働きをしている器官や構造)や粒子、細胞内細菌(病気を引き起こす微生物)を取り除き、再利用する方法のことだ。オートファジーには、免疫系を強化し、がんや心臓病、慢性炎症、変形性関節症、うつ病や認知症などの神経変性疾患の発症リスクを大幅に低下させる効果がある。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)9ページ
(2) BCAAがオートファジーを抑制する
プロテインに配合されている成分でBCAA(Branched Chain Amino Acid; 分岐鎖アミノ酸)と言われるものがあります。
BCAAは、バリン、ロイシン、イソロイシンという3つのアミノ酸の総称です。
BCAAは、筋肉を付けるために必要ですが、過剰に摂取するのはよくありません。
BCAAはオートファジーを抑制してしまうからです。
中でもロイシンについてはつぎのように説明されています。
ロイシンは筋肉を増強することで知られ、ボディービルダーがよく飲むプロテインドリンクに大量に入っている。しかし、筋肉ができるのは、ロイシンがmTORを活性化するせいでもある。mTORの活性化から始まる一連の化学反応は、「今はいい時期だからサバイバル回路を働かせないでおこう」と体に呼びかけているのと変わらない。したがって、長い目で見ればプロテインドリンクのせいで、長寿のメリットが得られなくなるおそれがあるわけだ。
デビッド・A・シンクレア『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』(東洋経済新報社、2020年9月) 188-189ページ
若さを維持したいならBCAAは取りすぎないことが重要です。
プロテインを飲んだら不自然な量が含まれているのでよくありません。
体内で特定の機能を果たす必須アミノ酸は文字通り不可欠であり食事からとる必要があるが、過剰摂取している人が多く、健康に大きな影響を及ぼしている。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)118ページ
プロテインはがん発症リスクを高める
一般的に、筋肉をつけるためにプロテイン飲料やプロテインバーを大量に摂取すると、がんの発症リスクが高まるのは、BCAAが含まれているためだ。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)119ページ
ぐえー、プロテインまじか。。
と思える説明。
(1) 大量のタンパク質が腫瘍増殖を引き起こす
食事で大量のタンパク質が体内に取り込まれる。
そうすると、体内は成長モードに入ります。
これだけ聞くと体が成長モードに入ってよさそうなものです。
しかし、成長モードが向いているのは子供であって、大人ではありません。
大人にとっては老化を促進し、腫瘍の増殖も促進されてしまいます。
食事によって大量のタンパク質が体内に取り込まれると、肝臓はそのタンパク質を利用して生産的な活動を行うために、IGF-1を分泌して細胞にこう指示を出す。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)84ページ
「成長期が来たぞ!エンジンを始動させて、増殖を始めよ。材料となるタンパク質はふんだんにあるからな」
問題は、成長ホルモンによって腫瘍の増殖も促されるおそれがあることだ。特に、オートファジーが長い間オフになっていて、機能不全のミトコンドリアが多く存在し、それが細胞のDNAを傷つけ突然変異を誘導するフリーラジカルを産生している場合は危険だ。
大人になっても「成長だ成長だ」と言っていると、がん細胞も成長してしまいます。
いい年した成人が子供と同じようなことをやっていてはダメです。
年齢に合わせた生活が肝心です。
成長期を終えた成人にとって、細胞の成長は促すよりも、遅らせるべきである(成長を善とする「アンチエイジング」なホルモンやサプリメント製品の宣伝文句とは逆だが)。そのため、目指すべきは、タンパク質をとりすぎず、摂取量を適量に抑えることだ。
同上
(2) BCAAは乳がんになるリスクを高める
特に女性はプロテインに要注意です。
乳がんになる可能性を高めたいですか?
プロテインによく含まれているBCAAの1つであるロイシンは、乳がん細胞の増殖を促進してしまいます。
2019年のネイチャー誌の報告によると、乳がん治療中の女性がロイシンを多く含む食品をとると、タモキシフェンなどの抗がん剤の効き目がなくなった。mTORを活性化し、細胞の分裂と増殖を促すロイシンは、正常な細胞だけでなく乳がん細胞の増殖も促進する。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)119ページ
健康だと思って摂取したプロテインのせいでがん細胞が増えたらシャレにならない。
どうすればいいのか?
簡単です。摂取量を減らせばいい。
ロイシンの濃度が低下すると、これらの働きは抑制される。つまり、ロイシンの摂取量を極力減らせば、細胞の増殖が抑えられると同時に、がんの進行を食い止める効果がある。食事でがんに対抗することは可能だ。
同上
食事でがんに対抗するためには、ポイントは「何を食べるか」ではなく、「何を食べないか」です。
また、BCAAは、乳がん細胞の増殖を促進するだけでなく、ホルモンの面でも悪影響を及ぼすようです。
最近の研究では、(注 BCAAは)ホルモンやエストロゲン受容体にも影響を与えることが明らかになっている。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)118ページ
ホルモンやエストロゲン受容体が影響を受けると何がいけないのか?
乳がん細胞には様々なタイプがあり、そのうちの75%もの乳がん細胞はエストロゲン受容体を持っています。そして、それら乳がん細胞は女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン等)を成長のために必要としています。
そうしたサイクルにBCAAは関与してしまいます。
さまざまなタイプの乳がん細胞の大半(75パーセント)はエストロゲン受容体を持っており、それらの細胞は成長のためにエストロゲンやプロゲステロン(訳注*ともに女性ホルモン)を必要とする。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)119ページ
プロテインで太る
糖分の取りすぎは太る。
そのメカニズムは以下のように説明されます。
食後、あまりに急激に血糖値が上昇すると(血糖スパイク)、体内で血糖値を抑えようとしてインスリンが大量に分泌されます。インスリンは脂肪を増やし、脂肪細胞の分解を抑える働きをするので、大量のインスリンの分泌は「肥満」を誘発するのです。
米井嘉一『最新医学が教える 最強のアンチエイジング』(日本実業出版社、2019年3月)104ページ
血糖値急上昇の結果、インスリンが大量分泌されるのが良くないのだと。
そのインスリンは、実はタンパク質によっても分泌が促進されます。
タンパク質は、糖質と同じくらいインスリン分泌を促す――このことは、いくら強調してもし過ぎることはない。糖質だけがインスリンの分泌を促す食べ物として注目されがちだが、タンパク質にも同じ作用があることを忘れてはならない。インスリンには、分解されたタンパク質から得たアミノ酸を筋肉などの組織に運ぶ仕事がある。しかし、タンパク質をとっても、糖質を摂取したときのように迅速にグルコースが細胞に運ばれない。もし、この状態が放置されると、高タンパク質の食事の摂取によってインスリンが分泌されることで血糖値が過剰に引き下げられるため、低血糖症になってしまう。そこで、身体は血糖値を高めるグルカゴンを放出してインスリンとのバランスを取ろうとする。しかし、肉や乳製品に多く含まれるロイシンやイソロイシンなどのアミノ酸は、他のアミノ酸とは異なり、インスリンの分泌を強く促すだけでなく、グルカゴンの分泌も抑制する。アミノ酸の一つであるトリプトファンも他のアミノ酸よりもインスリン分泌を促す。肉や乳製品を多く摂取すると、肥満やインスリン抵抗性(訳注*インスリンが十分に作用しない状態)が増えるのは、これらのアミノ酸に主な原因があると考えられている。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)114ページ
また、ホエイプロテインもインスリン分泌を促します。
ホエイプロテインは、主要なプロテイン商品に多く含まれていますし、プロテインと一緒に飲む牛乳にも含まれています。
ホエイプロテインを摂取するとインスリン値が上昇する(そのためインスリン抵抗性や血糖値上昇、さらには炎症が生じることがある)
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)117ページ
「肥満防止のため、糖分を控えてタンパク質を増やそう!効率よくタンパク質を取るためにプロテインを飲もう!!」という食生活にしても、肥満防止に効果があるとは限らないのです。
プロテインで肌荒れ | プロテインはニキビを増やす
プロテインはニキビを増やす可能性があります。
にきびに悩むボディビルダーが多いのは、ホエイベースのプロテインシェイクやプロテインバーを常用しているからだ(合成ステロイドも炎症を助長する)。ホエイとカゼインは、以前から、にきびの発生との関係が指摘されている。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月)117-118ページ
筋トレとプロテインが美容にいいと言いながらがぶがぶプロテインを飲んでニキビが増殖してる。
そうだとすると目も当てられません。
プロテインは腎臓に悪い
プロテインは腎臓に負担をかけるという意見を見ます。
プロテインそのものが悪いわけではなく、大量摂取がいけないようです。
タンパク質によって体内で生まれる尿素窒素などの毒素は、腎臓が濾過して尿に排出します。人工的に大量のタンパク質を摂取することは、その働きを腎臓に強要し疲弊させ、重大な被害を生みかねません。
牧田 善二『医者が教える食事術 最強の教科書――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方』(ダイヤモンド社、2017年9月)80ページ
当然ながらプロテインサプリメントは、「自然な食品とは比べものにならないほど大量のタンパク質が含まれ」ている人工的な商品です。
スポーツクラブに行くと、プロテインやアミノ酸などのパウダーを水に溶いて摂取している人をよく見かけます。とくに男性に多いですね。
牧田 善二『医者が教える食事術 最強の教科書――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方』(ダイヤモンド社、2017年9月)80ページ
結果にこだわる男性は、どうせ運動をするなら、筋肉がつくプロテインや疲労を取り除くアミノ酸の力を借りたほうが効率的だと考えるのでしょう。
しかし、いますぐやめてください。
プロテインを飲むのは「いますぐやめてください」とのこと。
タンパク質は必要だがプロテインで過剰摂取しない方がよい
タンパク質が不要だと言っているのではありません。
アミノ酸は体の役に立つとみなされることが多いし、実際に役立つ場面はある。
デビッド・A・シンクレア『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』(東洋経済新報社、2020年9月)188ページ
BCAAは体内で重要な役割を果たし、成長と修復のために欠かせない。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月) 119ページ
ただ、多くの成人にはプロテインパウダー等のサプリメントで大量に摂取する必要がなく、むしろ害が大きいことを懸念しています。
タンパク質不足は、筋力や筋肉機能の低下、薄毛、吹き出物、体重減少などを招くおそれがあるとされているが、摂食障害の人を除いてこうした症状が出ることはまれだ。むしろ厄介なのは、タンパク質の過剰摂取のほうである。
ジェームズ・W・クレメント=クリスティン・ロバーグ『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(日経BP、2021年1月) 110ページ
若者と成人とで必要とするタンパク質の量が違います。
若いときにはタンパク質が必要だが、タンパク質はmTORを活性化するため、一定の生物学的年齢を超えたあとは体に良くないことがわかっている。
ニール・バルジライ『Super Agers スーパーエイジャー 老化は治療できる』(CCCメディアハウス、2021年6月)244ページ