「ポートフォリオには株式と債券に分散投資しましょう」
これは資産運用でよく聞かれるアドバイスです。
ポートフォリオのうち株式を何パーセントにして、債券を何パーセントにするかは重大問題です。
ところで、「債券」とは何を買えばよいのでしょうか。
債券は、国債や社債です。債券を買うということは、国や企業に金を貸すのに等しい。
個人向け社債として、ソフトバンクや楽天などが起債しています。
社債に比べると日本国債の利率は非常に低いため、社債は利率ではとても魅力的に見えます。
しかし、その社債投資は本当に良いのか?
よく考えるべきだ、というのが本記事のコアメッセージです。
1 社債投資のリスク
イェール大学での投資責任者を務め名高い投資家であるデビッド・スウェンセンは、個人投資家に社債は勧められないと言います。
リーマン・ブラザーズによって発表された2003年12月31日までの10年間の年次リターンは、米国債が6.7%、投資適格社債は7.4%だった。指数の市場特性の違いや期間によるマーケットリターンに対する影響によって完璧な比較ではないとはいえ、年間リターンの差がわずか0.7%では、社債投資家はデフォルトリスク、非流動性、繰り上げ償還条項に対して十分な補償は得られない。米国債のほうがはるかにマシだ。
デビッド・F・スウェンセン『イェール大学流資産形成術』(パンローリング、2021年1月)146ページ
(1) 社債投資の代表的なリスク
社債には、概略、以下のようなリスクがあります。
1. 信用リスク 信用リスクは、社債を発行した企業や団体が経済的に苦境に立たされ、約束されたクーポン(利子)の支払いや元本の返済が滞る可能性を指します。つまり、社債を持つことで、発行者の信用力に関連するリスクが発生します。
2. 金利変動リスク(価格変動リスク) 金利変動リスクは、社債の市場価格が、一般的に金利水準の変化に影響を受けることを指します。金利が上昇すれば、社債の市場価格は下落し、逆に金利が低下すれば社債価格は上昇します。これは社債の利回りに影響を与えます。
3. 流動性リスク 社債は市場で売買できるため、資金回収が可能です。しかし、市場での取引が制限されたり、流通が少ない社債も存在します。また、一部の社債は一定期間にわたり売却できない場合もあります。このような場合、社債を急いで売却できません。この「すぐに換金できないかもしれない」というのが流動性リスクです。
4. 為替リスク 外貨建て社債やデュアルカレンシー債など、元本やクーポンの支払いが外貨で行われる社債には、為替リスクが存在します。社債を購入したときと売却したときの為替レートによって、元本やクーポンの受け取り額が変動する可能性があります。このリスクは為替市場の変動によって影響を受けます。
(2) 社債の繰り上げ償還
デビッド・スウェンセンは、社債の繰り上げ償還条項に注意すべきだといいます。
簡単にいうと、社債投資家は、社債発行会社から不利な条件を一方的に押し付けられているということです。
社債の繰り上げ償還のリスクは、社債発行者が予定よりも早く債券を償還(元本の支払い)する権利を持つことに関連しています。
ア 繰り上げ償還の仕組み
社債契約において、発行者は通常、将来の特定の日付まで社債を維持し、クーポン金利を支払い続けることに合意します。
しかし、繰り上げ償還することで、発行者は社債を事前に償還できる権利を持っています。
一般的に、発行者は金利が低下したり、新たな社債をより低い金利で発行できる場合に、このオプションを行使することがあります。
イ 繰り上げ償還のリスク
この繰り上げ償還オプションは、社債投資家にとってリスクをもたらす要因です。
なぜなら、発行者が社債を繰り上げ償還する場合、投資家は将来の利息を受け取れなくなり、投資の収益性が低下する可能性があるためです。
また、元本を繰り上げに返還された場合、投資家は再投資機会を見つけなければならないこともあります。
(3) 社債リスクを理解・察知できますか?
社債投資には上記のようなリスクが伴います。
社債を買い、その社債を発行した会社が倒産すれば、社債投資は大失敗に終わります。
それを避けるためには、その社債発行企業がきちんとお金を返せるかをチェックしなければなりません。
(証券アナリスト協会「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」より)
上記のような様々な分析をして初めて債券分析ができたことになります。
簡単なことではありません。
債券アナリストの仕事は間違いなく株式アナリストの仕事よりも複雑だ。社債投資家は債券市場の複雑さを理解するだけでなく、株式の評価に含まれるあらゆる問題に精通する必要がある。自己資本の余裕を理解することは、会社が債務の元利を支払う能力があるかどうかを評価するうえで極めて重要なので、債券アナリストは会社の株価を徹底的に調査する必要がある。
デビッド・F・スウェンセン『イェール大学流資産形成術』(パンローリング、2021年1月)140ページ
2 社債投資のデメリット
社債投資は、実は自分のポートフォリオを意図せぬリスクにさらしてしまうという重大なデメリットがあります。
以下では、まずなぜ債券投資をするのかを振り返ってから、どうして社債投資はポートフォリオ全体に悪影響を及ぼす可能性があるかを説明します。
(1) なぜ債券に投資するのか
債券は、多様な資産から成る投資ポートフォリオの中で、リスクを分散させる役割を果たします。つまり、債券を投資ポートフォリオに組み込むことで、全体のリスクを低減するのに役立つのです。
債券にはいくつかの特徴があり、それが投資初心者にとっても魅力的な選択肢となります。債券は、市場の変動に比較的左右されないため、安全性が高いと言えます。株式などのリスクの高い資産とは異なり、債券は比較的安定したキャッシュフローを提供します。
また、株式と債券(国債)は負の相関を持つ傾向が強いとされています。
そのため、株式が下落基調にあるときは債券投資の調子はよくなる傾向があり、ポートフォリオ全体のパフォーマンスが安定します。
「卵を一つの籠においてはならない」という分散投資の鉄の掟に従い、ポートフォリオは株と債券に分散投資しようといういうのが債券投資の狙いです。
株式がローリスクなら誰も債券には投資しません。債券はローリターンですが、ローリスクですので、株式のハイリスク・ハイリターンをやわらげるために多くの投資家は債券を買うのです。
(2) 社債を買うのは株式を買うようなもの
社債を含めた投資ポートフォリオを構築する際には、注意が必要です。
社債の特性と他の資産(国債や株式)との関係を理解しなければなりません。
ア 社債の利回りと社債価格の特徴
社債の利回りは、基本的に以下2つの要素によって決まります。
- 国債の利回り
- 信用スプレッド(社債と国債の利回りの差)
信用スプレッドは、発行者(企業など)の信用状況に応じて変動します。企業の業績が悪化すると、その企業の社債の信用スプレッドが拡大し、社債の利回りが上昇します。このような状況では、社債価格が下落する可能性が高まります。
イ 株価と社債価格は連動する(正の相関)
企業の株価が下落すると、その企業の業績に不安が生じます。
よって、社債の元本および利子の支払いにリスクが生じます。
その結果、投資家はリスクを考慮して、社債に対する信用スプレッドが適切でない場合、その企業の社債に投資しなくなります。
最終的に、社債価格が下落します。企業の株価と社債価格には正の相関があります。
株価が下がると同時に社債価格が下がることになります。
ウ 株価と正の相関があるのでは社債は債券投資として不適格ではないか
社債は株価と正の相関がある。
これは大問題です。
債券に投資をするのは、株価と負の相関があるからでした。
株価が下がれば債券(国債)価格は上昇する。
しかし、社債は国債とは違う。
社債は株価と正の相関があることから、ある企業の株価が下がれば社債価格は下がってしまいます。
社債を投資ポートフォリオに含める際には、国債と株式とのバランスを考える必要があります。社債は国債に比べてスプレッドによるリターンが高い一方、株式市場との負の相関が弱まる可能性があるため、リスク分散効果が働かないおそれがあるのです。
したがって、投資戦略を検討する際には、社債の適切な割合を検討することが重要です。
3 社債は素人投資家にはおすすめできない
ここでもう一度スウェンセンの言葉を引用します。
リーマン・ブラザーズによって発表された2003年12月31日までの10年間の年次リターンは、米国債が6.7%、投資適格社債は7.4%だった。指数の市場特性の違いや期間によるマーケットリターンに対する影響によって完璧な比較ではないとはいえ、年間リターンの差がわずか0.7%では、社債投資家はデフォルトリスク、非流動性、繰り上げ償還条項に対して十分な補償は得られない。米国債のほうがはるかにマシだ。
デビッド・F・スウェンセン『イェール大学流資産形成術』(パンローリング、2021年1月)146ページ
社債に投資すると、不利な契約条件を受け入れねばなりません。
どう不利なのかは自分で調べなければなりません。
そして、契約条件だけでなく、その企業が投資先として適格かもチェックする必要があります。
「わからないものには投資しない」は、ウォーレン・バフェットが説く投資の大原則です。
なんとなくとある企業を分析してその企業の社債を買うことにしたとしましょう。利回りがそこそこ高いから。
しかし、その社債購入を「債券投資」の枠組みでやったとすると、自分のポートフォリオに目に見えない思わぬリスクを持たせることになるかもしれません。
自分のポートフォリオの内の「債券」は、株式のようなリスクを持たないものと認識しているけれども、「債券」の中に含まれている社債は、実は株式とあまり変わらないリスク特性を持っている可能性があるのです。
社債は難しい。
『敗者のゲーム』で著名なチャールズ・エリスは社債を勧めていません。
個人投資家は個別の社債に投資してはならない。
チャールズ・エリス『敗者のゲーム』(日本経済出版社、原著第6版、2015年)109ページ
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