ジェレミー・シーゲル流株式投資の落とし穴

シーゲル 株式投資

ジェレミー・シーゲル教授の本を読んで「株式投資すごい!私も配当を重視して長期間株に投資しよう」と勇気付けられた人もいるでしょう。

私もシーゲル教授のあげた過去の株式の平均リターンを見て「大恐慌があろうとなんだろうと株は全てに勝つんだなあ」という感想を持ちました。

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本記事はそんなジェレミー・シーゲルさんの言うことに盲従することを注意喚起する記事です。

目次

1 チャーリー・マンガー「シーゲル教授は認知症なんだと思う」

2006年のバークシャーの年次総会でバフェットとマンガーは株主からこんな質問を受けました。

ジェレミー・シーゲルの株式投資の本から株式投資について影響を受けましたか?

これに対するバフェットの回答。

(シーゲル教授の本から)影響は受けていません。
it’s had no effect on us.

Afternoon Session – 2006 Berkshire Hathaway Annual Meeting (cnbc.com)

チャーリー・マンガーは、シーゲル教授の考えについて率直に自らの感想を語っています。

以下はバフェットとマンガーの発言です。

マンガー:長期株式投資についてとても楽観的な人のこと?

バフェット:そう。ペンシルベニア大学の。

マンガー:そうか。彼は認知症なんだと思う(聴衆の笑い)。

バフェット:彼はいい人だよ、チャーリー。

マンガー:いい人なのかもしれないが、リンゴを像と比較して正確な予想をしようとしているようなものだ。

CHARLIE MUNGER: No, is that the fellow who’s very optimistic about common stock investment over long periods of time?

WARREN BUFFETT: The University of Pennsylvania. Yeah.

CHARLIE MUNGER: Yeah. Well, I think he’s demented. (Laughter)

WARREN BUFFETT: Well, he’s a very nice guy, Charlie. But — (Laughter)

CHARLIE MUNGER: Well, he may well be a very nice guy, but he’s comparing apples against elephants and trying to make accurate projections. (Laughter)

Afternoon Session – 2006 Berkshire Hathaway Annual Meeting (cnbc.com)

「リンゴを像と比較」とはよくわからない表現ですが、英語では同じものを比較する場合はapple to appleといい、比較する対象が違う場合はappleとorangeを使います。

以下はoxford dictionaryに出てくる表現です。

you can’t compare apples and oranges。

マンガーは、apples and orangesをさらに強調してapples against elephantsと言ったのだと思われます。

問題は、シーゲル教授が何と何を比較していることを揶揄しているのかがわからない。。

2 シーゲル流株式投資で大損したイギリス国教会

シーゲル教授の教えは株式にたくさん投資しろ。というものです。

イングランド国教会(Church of England)は、1998年、聖職者のために年金基金を創設し、この基金はシーゲル教授の教えに適合的な資産配分を行って株式に100%投資しました。

国教会は、株式は長期的には債券を凌駕することを歴史が示しているため、株式を購入して長期的にそれらを保有せよ、という現代ファイナンスのテキストから根拠を得ていた*。
*この投資アドバイスを裏付ける歴史的分析は, Jeremy Siegel, Stocks for the Long Run,2nd ed.(New York, McGraw-Hill, 1998)(ジェレミー・シーゲル著,笠原高治訳「シーゲル博士の株式長期投資のすすめ」日本短波放送。1999年。ジェレミー・シーゲル著,藤野隆太,林康史,石川由美子,鍋井里依,宮川修子訳『株式投資[第4版]-長期投資で成功するための完全ガイド」日経BP社,2009年原著の最新刊は, Jeremy Siegel,StocksfortheLongRun:TheDefinitiveGuidetoFinancialMarketReturns&Long-TermInvestmentStrategies,5wed.(NewYork,McGraw-Hill,2015))に見られる。

S.H. ペンマン『ペンマン 価値のための会計 賢明なる投資家のバリュエーションと会計』(白桃書房、2021年6月)46ページ

イギリス国教会の基金は、債券とかそんなのよりも株式のリターンは良いのだという教えに従って全開株式投資を行ったわけです。

イングランド国教会年金理事会の議長であるショーン・ファレル(Shaun Farrell)は、この基金が株式に投資したのは、退職金が長期にわたって支払われ、「株式は長期的にみて最高のリターンを得ることができる」からだと語っている。

同上

このような資産配分をしたイギリス国教会の基金は、2009年までに巨額の損失を抱えてしまいました。

その後どうなったかはわかりません。

イギリス国教会だけでなく、個人投資家の多くも同じような悲惨な結末を迎えたとペンマン教授は述べています。ペンマンはコロンビア大学の教授です。

ペンマン教授は、シーゲル流の楽観的長期株式投資についてこう述べています。

残念なことに、このアドバイスは学問的常識を装いながら、いわゆる推測を招くものであり、情報を脇へ追いやるものであった。アドバイスには、「株式の平均リターンが高いほどリスクプレミアムが大きくなり、リスクとは投資家が大きな打撃を受ける可能性があることを意味する」という金融商品の警告ラベルが付いていなければならない。実際に、こうした推奨は、効率的な価格で購入するということは、リスクが発生したときの期待リターンしか得られないという、効率的市場理論を誤って解釈したものである。そして、リスクは痛みを伴うかもしれないことを意味する。

S.H. ペンマン『ペンマン 価値のための会計 賢明なる投資家のバリュエーションと会計』(白桃書房、2021年6月)46ページ

3 ジェレミー・シーゲルの用いた数値は信用できるのか

シーゲルさんの提示した株式投資のリターンの数値はそのまま真に受けられないというコメントがあります。

まず、ペンマン教授のコメント。

米国における株式リターンの100年の歴史は、株式がリスクの低い債券よりも高いリターンを生み出してきたことを示している。しかし、それは米国の世紀(AmericanCentury:20世紀)のことだった。つまり、高いリターンは、革命、飢饉、疫病がなく、(ほぼ)すべての戦争で勝利し、結果として大成功した国だけのものであった。結果が異なるいくつかの国、つまり日本、ドイツ、そして中国では、株式投資収益ははるかに低かった。

S.H. ペンマン『ペンマン 価値のための会計 賢明なる投資家のバリュエーションと会計』(白桃書房、2021年6月)46ページ

シーゲルさんがあげている楽観的な数値は、「革命、飢饉、疫病がなく、(ほぼ)すべての戦争で勝利し、結果として大成功した国だけ」のものだとペンマン教授は述べています。

今後の株式投資でそんな奇跡的な経済状態のよい国に投資を続けられる保証はありません。

また、ジェイソン・ツバイクさんによれば、シーゲル教授のデータには水増しが指摘されているといいます。

ジェレミー・シーゲルのデータは、インフレ率を調整したうえで、1802~70年にかけて株式が年間7.0%、債券が4.8%、現金が5.1%のリターンを上げていることを示している。しかし、ロンドン・ビジネススクールのエルロイ・ディムソンとその同僚らは、1871年以前の株式のリターンは、少なくとも年間2%水増しされているものとみている。

ベンジャミン・グレアム、ジェイソン・ツバイク『新賢明なる投資家 上』(パンローリング、2005年)158ページ

4 シーゲル流が悪いとは思わないが

ジェレミーシーゲルさんの本を読むとは個人投資家の中ではかなり勉強熱心だと言えます。

そんな勉強熱心な方なら、ペンシルベニア大学教授でなんかすごそう!と鵜呑みにせず、本記事で紹介したような慎重論もあるのだということを念頭におくべきです。

様々な意見を自分で真剣に検討することでよりよい投資家になれるはず。

さらに本格的に学ぶならやはりバフェットの手紙を読むべきです。

以下が最新版。バフェットは特に投資法の本を出していないため、株主への手紙こそがバフェットの自著と言えます。手紙の中でも株式投資に言及しています。

著:ローレンス・A・カニンガム, 翻訳:増沢浩一, 翻訳:藤原康史, 翻訳:井田京子
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バフェットからの手紙は、トピックは株式投資だけに限ったものではありません。バークシャーの経営とか会計とかについても書かれています。

投資だけについて読みたい人にはやや読みにくい。

そんな人には以下のようなバフェット流投資術を勧めるDVDがお勧め。

著:ロバート・G・ハグストローム
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ハグストロームさんの本は、バフェットとマンガーにも勧められていたことがあります。

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